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ハナシの畑

農業も御園地区の暮らし方も、自分が出した答えに成長があるから、“八合目”まで導いています。

栗山町御園地区
『齊藤ファーム』

齊藤 義崇さん

御園地区は、当サイトに登場した
新規就農者の菅野さんや小川さんが暮らし働くエリア。
この地に110年以上も前に入植し、代々農業を受け継いでいるのが齊藤ファームだ。
五代目の齊藤義崇さんは若手をこま目にフォローする面倒見の良いリーダー的な存在。
地域農業をけん引する立役者だと耳にした。
さっそく噂を確かめに、御園地域へ。

自身の性分にぴったりハマった、
「伝える」仕事。

齊藤義崇さんが農場を受け継いだのは4年ほど前。父の代から米とメロンの栽培(一部和牛)を中心とする営農スタイルを徐々に切り替えていき、今は和牛繁殖とその堆肥を活用したアスパラ栽培を経営の柱としている。

「牛の居心地が良くなる敷料を使ったり、トウモロコシと穀物の配合飼料を与えたり、お腹を整えるヤシの実の粉末を食べさせたり。独自の工夫で牛の健康を育んでいます。牛舎を清潔に保つために牛のベッドも頻繁に取り替えるのですが、その残さはアスパラの肥料に活用できるから実は合理的なんです。化学肥料も1種類しか使わなくて良いですしね」

牛の栄養バランスや土の成分などを考慮する科学的な視点と、経営を強く意識した効率性の側面から農業を見つめる齊藤さん。とても就農4年目のスタイルとは思えないが、前職について尋ねてみると、なるほど、合点がいった。実は、もともと普及指導員(農業技術の開発や指導、農家の経営相談に応じる都道府県職員)として働いていたのだそうだ。

「大学生のころは卒業してからすぐにウチを継ぐか、一度外の世界を見てみるか迷っていました。そんな時に普及指導員の募集を見つけ、道庁の試験に挑戦してみたらたまたま受かっちゃって(笑)。結局、17年くらい働き続けました」

いずれ齊藤ファームを継ぎ、農業の世界に足を踏み入れる時に普及指導員の経験は役立つだろう。そんな目論見もあった。が、農業法人設立の手助けや新規就農者のサポート、さらに農家に赴いてテクニカルなアドバイスを送るうちに、自らの知識を「伝える」ことが齊藤さんの性分に合っていると気づいたという。

同じ御園地区に住む
“友だち”として若手を応援。

齊藤さんは、今でも依頼があれば普及指導員時代に開発に携わった水稲直播の講習会を開いたり、農業専門誌に連載を持ったり「伝える」活動にも取り組んでいる。“元指導員”ということもあり、アドバイスを乞いに訪ねてくる人も後を絶たない。

「僕はあの農薬がいいとか、防除のタイミングはいつだとか、相手と同じ視点でアレコレ話し合うというスタンス。だけど、山で例えると八合目までしか案内しません。そこから先は本人が考えて答えを導かなければ成長はありませんし、一つの判断が経営に影を落とすこともありますから、おいそれと全てを口に出すべきじゃないとも思っています」

インタビュー中に何度も飛び出した言葉は「レクチャーしたことを試してみるのは自己責任」。一聞には冷たく感じるが、その裏にはトライアンドエラーを繰り返し、収量や品質が向上した時の楽しさを知ってほしいという思いが込められているのだ。

「農業技術や経営に関するアドバイスとは別に、御園地区の若手の菅野君や小川君のことはただただ純粋に応援したいという気持ちですね。子どもも同じくらいの年齢ですし、何というか“友だち”として。だから、大丈夫かな?どうしてるかな?と気になっていつも声をかけています。関西出身の小川君はよく話すけど、ちょっとシャイな菅野君なんかはもっと聞きに来てくれよって思ったり(笑)」

齊藤さんが御園地区の若手を気にかけるのは同じコミュニティに住む仲間だから。同時に「若い人や新しい家族が増えるのは御園地区にとって良いこと。これ以上人が減るのはインフラ整備が後手に回ったり、自治会の高齢化が進んだりといった点で得策じゃありませんからね」と御園地区を俯瞰してより良い地域づくりに取り組んでいこうとする視点も携えていた。

御園地区のルールを
上手く伝えて“架け橋”に。

齊藤さんが御園地区に就農する人に何よりも伝えたいこと。意外にもそれは農業の知識や技術でも経営のノウハウでもなく、栗山というまちの生活環境なのだという。農業は暮らしと密着した仕事。距離の近い人間関係や地域のしきたりに慣れる覚悟がなければ、たちまち自分の居場所を見失って、残念な結果を招いてしまうケースも多いからというのがその理由だ。

「ここで生まれ育った人間は御園地区のルールを肌で感じてるんです、不思議なことに。だけど、新しく外から入ってきた人が文章化されているワケでもない微妙な“空気感”を察するのは難しいものです。例えばあいさつ一つでも、会議の意見の言い回し一つでも。そういったことを上手く伝えてあげるのも自分の役割なのかな、と」

農村は都会と異なり、「怪しい車が通った」「あの家はしばらく電気がついていない」などに敏感だからこそ、気にされすぎていると感じる人も。些細なすれ違いから御園地区を離れてしまう人が出ないように、齊藤さんは地域と“新人さん”との架け橋となっているのだ。

「新規就農した人が先輩に振る舞い方を注意されたとして、本人や周りに悪い影響が出そうだと思ったらそれとなく意図を伝えています。“友だちの話なんだけどさ”と置き換えたりしながら、相手があなたのことを思ってこそ叱ったんだって。人間はなかなか性格を変えられっこないから、自分で反省点に気づけるよう導くしかないんですよね」

お世話好きで優しくて、だけど人の成長を切実に願っているからこそ「全ては教えず」に導くスタンス。そして御園地区というコミュニティの未来まで見据えた言動。齊藤さんはやはり噂通り地域を引っ張るまとめ役だ。そう感想をもらしたところ、「え〜!?自分がリーダー?そんな大層なことに取り組んでいるつもりはないんだけど…」と心から驚いた表情。当然のこととして若手をフォローし、新規就農者が地域になじめるよう行動しているところも、信頼の厚さを生み出している所以なのだろう。

〈平成28年7月取材〉